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佐久島アート

稲垣三郎レクチャー

 

「ピカソから松沢宥まで-20世紀美術の諸表情」

      1998年9 月30日  

オカザキラブ アドヴァイザー・稲垣三郎  

 ◆産業革命を背景に 

19世紀、産業革命が急激に進行しました。世紀の前半に実用化された写真は世紀末近 く感光剤が開発されフィルムが誕生して一気に性能が高まり普及し始めました

 それまで、物の形や色の伝達という実用的使命を背負わされていた絵画がその役目 を解かれて、さまざまな方向へ飛び出したのが20世紀の美術、特に絵画です。その中で1 9世紀後半、光学の進歩に合わせて「印象派」が生まれました。物体には固有の色はなく、 色はすべて反射により感じられるとして虹のような色使いの表現をしました。

 それに対してその言わば科学性優先に反発して人の内面性や、物の存在の仕方を追 求した考えが出てきました(後期印象派)。

 その中心的作家がセザンヌで「すべての物体は球、円錐、円筒で表せる」とも言い、構 成的な画面で「存在」を追求しました。セザンヌはその後の20世紀絵画に非常に大きな 影響を与えました。

 ◆抽象画の誕生 

 後期印象派の内面重視の考えからフォービスム(野獣派)が生まれ、立体構成的考え はキュビスム(立体派)につながりました。いずれも1900年-1910年の間に始まりました。 欧州は第1次世界大戦の少し前です。二つの流れはその後の絵画の大きな潮流になりま した。フォービスムの表現は、今でもたくさん描かれている具象絵画の表現方法として 日本も含めてしばしば見られます。一方、ピカソに代表されるキュビスムの立体構成 的に整理された画面は後の幾何学的な抽象画につながった、と私は考えます。

 ところで、出来の悪い福笑いのような、目鼻や口がばらばらに配列されたピカソの人 物像を前に、首をひねる人がたくさんいます。これについて、ピカソは正面から見た顔 と側面から見た顔を一つの顔に合成しているのです。対象を同時に二つ以上の視点か ら見て、それを一緒に描いているのです。正面から見る時と、側面から見る時という二 つの時間を一つの画面に描こうとしているのです。つまり平面的、静止的な絵画に時間 を導入しようとしたのです。これ以降、「造形作品の中での時間表現」は20世紀美術の大 きな課題としてさまざまに表れてきます。

 第1次大戦中に虚無的なダダイズムが、大戦後に「夢」を作画の大きな核としてとらえ たシュルレアリスム(超現実派)が生まれます。大量殺戮を伴った大戦など現実社会へ の不信が出発点だったのでしょうか。シェルレアリスムの手法は大きな流れになり現 在に続いています。

 ◆ポップからコンセプチュアルへ 

 第2次世界大戦時、ナチの圧迫を逃れて欧州からユダヤ系など多くの芸術家が米国、 特にニューヨークに集まりました。その影響か、戦後米国美術が台頭します。

 50年代からの「抽象表現主義」が一世を風靡しました。整然とした抽象構成を一挙に 突き崩して、画家の肉体の動きそのままに形を重視せずに画面に直接生命を躍動させ る、と言った趣です。ついで「ポップアート」が60年代から。見みなれた日常の品物や旗、 地図といった平面的な製品をカンバスに描き、さらにはコミック漫画の1コマを拡大し て油絵に仕上げるといった作品。作品化しアートにしてしまうことで、日常品は姿と意 味を変え、逆に日常の空間も変わっていく。その状況を楽しむというものです。

 ポップアートは、「芸術」という長い歴史を持った感覚的楽しみの制度に対して、それ を否定しかねない「日常アート」であり、その出合いの場はスリリングで考えさせられ るものがあります。その点で、その後に続くコンセプチュアルアートにつながるルート があるように思います。

 コンセプチュアルアートは作家のコンセプト(観念)の伝達を画面などに優先させる 表現で、見る人の内側に創られるアートと言えます。作者の、言わば“抽象的”とも言え る非日常的な語や表示(表現)、あるいは動作から、それを見た人が想念(想像)の中に ある種の像や物語りを創りあげる、一種の「アートゲーム」と言えます。パフォーマンス などを伴って近来増えている表現形態です。松澤宥さんはこの分野の先駆者の一人で 世界的にも高い評価を受けています。

 ◆絵を分かるには 

 コンセプチュアルアートに限らず、抽象画も、また本来は具象画を見る場合にも、作 品に対して自分の中での意識的な創造(例えば、絵についての物語りを想像する)をす るのがよいと思います。そうすると作品が自然に語りかけてきます。

 これは、常日ごろの訓練で創造が容易になります。

 それに、絵を見るにはやはりそれなりの時間が必要です。イギリスには「絵を見るな らまずいすをその前に置け」という言い習わしがあるそうです。じーっと見ていると「分 からない」と思った絵が表情をみせて話し始めます。そして自分の内にもイメージがわ いてきます。


★★各潮流のミニ解説★★

◆抽象画

抽象とは、いろいろな物体の具象性(例えば樹木の枝や葉の具体的な形、それ ぞれの人の顔など)を理論的な形や線(例えば直線、楕円、球、円筒…)に整理するこ と。抽象画には、A=上のような過程で描く対象を整理して幾何学的またはそれに近 い抽象表現をした作品(冷たい抽象)B=自己の造形イメージや衝動ををいきなり カンバスに表現する非具象の作品(熱い抽象)、の2種類がある。

しかし、絵を描く時には具象作品でも広い意味での抽象作業は必ず伴う。実際は 具象絵画と上に述べたような抽象絵画との中間の作品が大部分である(日本の浮 世絵やヨーロッパ中世の宗教画、ピカソの大部分の作品など)。

◆印象派

1874年「印象を描いたようだ」との評から。物の色は国有の色ではなく光の 反射によるとした。モネ、マネ、ルノワール、ピサロら。

◆後期印象派

印象派の光重視を懐疑、物の存在や自己の内面表現を尊重した。20世紀 のフォービスム、キュビスムの母胎といえる。セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンら

◆フォービスム

野獣派。後期印象派からフランスで生まれる。色彩の多用と形態の単 純化で自己の内面を表現。ルオー、マチス、ブラックら

◆ドイツ表現主義

第1次大戦ごろの不安を反映。現実の再現、再構成を否定、自己の内 面、感情の表出を優先させた。カンディンスキー、クレーら

◆キュビスム

立体派。「全物体は球、円錐、円筒で表せる」(セザンヌ)から。自然や人物 を立体化、整理化して画面構成。10年代に最盛、後の「抽象絵画」へ。ピカソら多数

◆未来派

10年代にキリコらが提唱。物事の背後の形而上的意味合いの表現を追求。思 索的、記号的、暗喩的な空間、人体表現。シュルレアリスムにも影響

◆ダダイスム

第1次大戦中にスイスで生まれる。社会の伝統、秩序や合理性を否定。反 抗的、非合理的、無意味性を表現。デュシャン、マン・レイら

◆シュルレアリスム

超現実派。20年代、フランスで。「理性や道徳、既成の美の規範から 解放され、思考そのものを表現。夢と覚醒の中間の感覚に基盤を」文学、映画、演劇 にもわたる20世紀の大潮流。エルンスト、ダリ、ミロ、マグリットら

◆抽象表現主義

50年ごろ米国で。合理、整理を基本感覚とする「抽象絵画」に反発、感性 の動きを無作為的、自動的に画面に表現。戦後の抽象表現の大潮流。ポロックら

◆ポップアート

60年代に米国で。絵画から意味性(感情移入や哲学的意味など)を排除、 旗や地図、コミック画面などを絵画の題材に。逆に現代的意味性は大きくなった

◆ニューペインティング

80年代。米国やドイツなどで。絵画の復権を目指し、日常的 なシーンなどをポップを交えた具象的諸表現で描く

◆コンセプチュアルアート

70年代各地で。既成の絵画表現(平面表現)を離れて、むし ろ作者が伝えたい意味性を言語を重視して優先する。河原温、松沢宥ら

◆パフォーマンス

70年代ごろ。絵の具や画面でなく、身体の動作などを使ってコ ンセプト(概念・存在の本質)を伝える表現。ウーライら

 

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